マクロ

eyecatch

主はオフィスを通りかかったとき、人々はExcelのマクロを実行していた。主は問いただした。

「あなたがたはなぜマクロを実行するのです?」

すると、人々は答えた。

「これがないと仕事が回らないのです。」

基幹システムはないのかと訝しむ主の顔を見て人々は続けた。

「雇い主が目先のお金に囚われてシステム化の予算をつけてくれないので、出向の情シス担当者が自作したのです。」

主は問うた。

「では情シス担当者がマクロを管理しているのですね?」

「いえ、作ったのは何代も前の前任者です。出向の条件も悪く、情シス担当者は今年だけで5人変わりました。マクロの中身を把握している人はいません。」

主は驚いたが、このままでは行けないと思い、マクロの危険性を訴えた。

「今や巷にはEmotetのようなマクロ経由で入り込むマルウェアは多い。特にランサムウェアの場合は社内の資産が暗号化され、仕事が回らないどころか長期に渡り事業停止を余儀なくされ、経営が傾くリスクもある。」

さらに主は続けた。

「この中で、そのリスクをきちんと認識し、セキュリティソフトをインストールし、アップデートが最新まで当たった者のみがマクロを実行しなさい。」

すると人々は一斉にマクロを実行し始めた。

人々のPCにはセキュリティソフトはインストールされておらず、回線も低速で、PCもCeleronのメモリ4GBでHDDのマシンだった。そのため、アップデートは常に滞っていて、2年以上前のバージョンのWin10だった。

主が去った翌日、オフィスではランサムウェアに感染したPCが出現し、メールによるばら撒きで次々と感染を広げていった。その様はまるで金の冠を被った馬のようなものが翼で降り立ち、そのサソリの尾でもたらした5カ月間の苦しみに悶える人々のようであった。

事業は須らく停止し、決算報告もできなかった。取引先への連絡は偽のメールが蔓延っていたため、人々に不信感が芽生えて真実かどうかを訝しんだ。企業の信頼は失墜し、経営は傾いた。経営者は苦しみのうちに姿を消した。

主は一連の様子をご覧になり、リスクマネジメントとセキュリティへの投資を固く誓った。

これが使徒が伝える第一の警句である。